みどころ


ティツィアーノは長い画歴のなかで、次々と様式を変化させていった。後年には、筆致の荒々しさが増し、光と影の対比を強調した表現へと移行してゆく。その一方で、ヴェネツィアではティントレットとヴェロネーゼという新たな絵画の担い手が誕生する。ヴェネツィア出身のティントレットは、当初はティツィアーノに学ぶも、色彩と素描の調和を目指し、ダイナミックな構図と極端な短縮法を取り入れたきわめて個性的な様式へと到達する。一方、ヴェローナからヴェネツィアに移住し、ティツィアーノの評価を得たヴェロネーゼは、ヴェネツィア派らしい華麗な色彩と古典的な造形をもって、物語場面を明快かつ祝祭的に描き出した。こうしてティツィアーノの遺産はさまざまに引き継がれ、それぞれの画家の個人様式が際立つ時代を迎えることとなる。

本作は、ファルネーゼ家出身の教皇パウルス3世が1543年に神聖ローマ皇帝カール5世に会うためにボローニャを訪れた際、教皇自身がティツィアーノのモデルとなって描かれた。構図は伝統的な肖像画の形式に従っているが、ティツィアーノは人物を画面に対して斜めに配し、空間性を強調している。


トップへ